事業の現状と相談のきっかけ
- A社は、乳製品を中心とした保冷食品の輸送を行う会社である。
- 乳製品は日配品といって、日々の生活に欠かせない商品であり、その輸送には、衛生面はもちろん、配達のタイミング等にも厳しいルールがある。
- A社は、そのような顧客のニーズにマッチしたサービスを提供し、成長を遂げてきたが、ここ数年、ドライバー不足に悩まされており、顧客からの新たな引き合いに十分対応できない状態が続いていた。
- 運送事業の生産性向上に関するセミナーに参加したことをきっかけに、個別に中小企業診断士に相談を行った。
ヒアリングによる課題の整理
- A社の顧客は、乳製品のメーカーや商社で、配達先は大手スーパーや食品卸の物流拠点である。
- 30人程度のドライバーの半数近くが月間80時間以上の残業を行っており、年間960時間の上限を超える可能性が高い。
- 新たなドライバーを雇用しようとしても、中々採用できず、採用できても、業務に習熟する前にやめてしまい、定着できていない。
- 今後、事業を拡張していくためには、ドライバーの増員と定着が必須となっている。
現状分析と課題
- 受注余力を確保するために、既存業務の生産性向上と、新規雇用者の増員定着に向けて、現状の分析を行った。
- まず、運転日報の分析を行い、残業の多いドライバーの特徴を洗い出した。その結果、車両が運行している時間よりも停止している時間が多いことが共通した特徴であることが分かった。
- 次に個々の運行を見てみると、集荷が順番待ちとなっており、予定時間の数時間前に到着しないと、指定された配達時間に間に合わないといったような理由が分かってきた。
- また、新規のドライバーが定着しない理由を現場でヒアリングすると、1日の労働時間が長い、有給休暇が取りづらい、他のドライバーが忙しそうで分からないことを聞く相手がいない、といったことがあることが分かった。
取り組み内容と成果
• まず、荷主には、配達コース別に集荷時間を定め、倉庫内作業と配送の同期化を図る提案を行った。その結果、待ち時間が大きく削減し、ドライバーの労働時間の低減が図られた。
• 残業手当の減少については賞与で補い、年間所得が減少しないように配慮した。
• 有給休暇が取りにくい原因として、業務が属人化しており、融通が利きにくいという点があったため、ドライバーをグループ化し、グループ内でシフトを組んで複数の業務を担当する方式に変えた。
• 上記のグループをまとめる従業員には「主任」という役職を与え、グループ内のシフトの決定、新人ドライバーの教育担当という役割を担ってもらった。
< 成果>
月間の残業時間80時間超のドライバーが0に。
有給休暇の取得日数が平均2日増加。
従業員数はコロナの影響で一時は減少したが、現在はコロナ前の水準に短期間で復帰。
• その他、社内のコミュニケーションも活発になり、働きやすい職場認定の三つ星を獲得できた。
• A社の提案が荷主の倉庫作業の合理化につながり、関係の強化が図られた。
お客様の声
(社長の声)
当社の社訓は「愛和―相手を理解して仲良くし、大切にする。」というものだが、私自身、ドライバーの働き方を理解していなかった。今回の相談をきっかけに会社のあり方を見直し、ドライバーを主役とした新たな成長の道筋が見えてきた。
(現場責任者の声)
グループ制度を作ったことで、業務が順調に回るようになった。
グループ間でのいい意味での競争もあり、職場全体が明るくなった。